「まだ5cmですね」
何時間も陣痛を乗り越えて、
「きっと、だいぶ進んだはず」
と思って内診してもらったあとに、この言葉を聞く。
……まだ、5cm。
何時間も頑張ったのに。
あと、どれくらい続くんだろう。
わたしのお産、ちゃんと進んでいるのかな。
長いお産は、やっぱりしんどいものです。
身体的な疲労だけではありません。
「いつまで続くのかわからない」
「ちゃんと進んでいるのかわからない」
そんな先の見えなさも、ママを疲れさせます。
でも、
お産が長いことと、 お産がうまくいっていないことは、 同じではありません。
「子宮口は1時間に1cm」が当たり前だった時代
長い間、分娩進行を評価するときに
使われてきた考え方のひとつが
「Friedman curve(フリードマン曲線)」です。
1950年代に報告されたこのモデルでは、
活動期に入ると子宮口は比較的速く開大し、
初産婦では1時間あたり約1.2cm、
経産婦では約1.5cmという進行が示されました。
そのため臨床でも、
「1時間に1cmくらい」
という数字が、正常な分娩進行を考えるひとつの目安として長く使われてきました。
ところがその後、現代の多くのお産を改めて調べてみると、
問題なく経腟分娩した女性たちも、
必ずしもそんなに速く子宮口が開いていなかった
ことが分かってきました。
特に4〜6cmくらいまでは、
かなりゆっくり進む人もいます。
つまり、わたしたちがかつて「遅い」と
考えていたお産の中に、
実は正常な経過のお産も含まれていた可能性があるのです。
世界の基準も変わってきた
現在、WHOは分娩活動期の開始を5cmとしています。
そして、「子宮口が1時間に1cm開かない」
という理由だけで、
分娩を促進するための医療介入をルーチンに行うことは推奨していません。
母体と赤ちゃんの状態が良好であれば、
5cmになる前にオキシトシンなどを使って
分娩を加速させることも推奨していません。(世界保健機関)
米国産婦人科学会(ACOG)は、
さらに活動期の開始を6cmとしています。
「活動期停止」と判断するのも、
6cm以上で破水していることに加えて、
十分な子宮収縮があるにもかかわらず
4時間子宮口が変化しない場合、
または
子宮収縮が不十分でオキシトシンを使用しても
6時間変化しない場合です。
そして、ゆっくりでも進行していて
母児の状態が良好なら、
それだけを理由に帝王切開を行うべきではないとしています。(アメリカ産科婦人科医会)
世界のお産が
急にゆっくりになったわけではありません。
わたしたち医療者の「正常を見る物差し」が変わってきたのです。
「まだ5cm」ではなく、「5cmまできた」
もちろん、何時間でも待てばいいという話ではありません。
本当に分娩が停止していることもあります。
ママが疲弊していることもある。
赤ちゃんの状態に変化が出ることもある。
医療の力を借りた方がいい場面もあります。
必要な医療は、必要なときに使う。
これはとても大切なことです。
でも一方で、
「時間がかかっている」ということだけで、
「うまくいっていない」と決めつける必要もありません。
子宮口が何cmかだけが、お産のすべてでもありません。
赤ちゃんが少しずつ下降したり、
向きを変えたり、
骨盤を通るための位置を探したり。
内診上の子宮口が大きく変わっていなくても、
見えないところでお産が進んでいることがあります。
だから、
「まだ5cm」
ではなく、
「5cmまできた」
と伝える。
たったそれだけでも、
ママから見える景色は少し変わるかもしれません。
「待つ」ことも、お産を支える医療
お産をしているママにとって、
長い時間を待つのは簡単なことではありません。
そして実は、
医療者にとっても「待つ」という選択には忍耐が必要です。
何もしない、という意味ではありません。
母体の状態を見る。
赤ちゃんの心拍を見る。
陣痛を見る。
下降や回旋を見る。
水分や食事、休息を支える。
痛みや不安に寄り添う。
必要なときにすぐ介入できるよう準備しながら、
「今、本当に急ぐ必要があるのか」
を考え続ける。
それも、お産を支える大切な医療だと思っています。
WHOも
「すべてのお産はそれぞれ異なる」という考えのもと、
画一的な分娩進行の速度だけではなく、
一人ひとりに合わせた支持的なケアを重視しています。(世界保健機関)
早く産めたから、上手なお産でもない。
時間がかかったから、
うまくいかなかったお産でもない。
長いお産を乗り越えたなら、
それは本当にすごいこと。
でも、お産にかかる時間は
誰かと比べるものではありません。
必要な医療は、必要なときに。
そして、
急がなくていい時間は、急がせない。
ママと赤ちゃんには、
二人のペースがあるのだから。

















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