世界授乳ウィークに思うこと

8月1日から8月7日は、世界授乳ウィークです。

わたしは産婦人科医として、
たくさんのお母さんたちと出会ってきました。

そして、3人の子どもを育ててきた母親でもあります。

上の2人は完全母乳で育てました。

もちろん大変なこともありましたが、
わたし自身にとっては、結果的にとても楽な育児でした。

哺乳瓶を消毒する必要もなく、
ミルクを作る必要もなく、
夜中に泣いたときもすぐに授乳ができました。

ところが、3人目のときは違いました。

母乳育児がなかなか軌道に乗らず、
赤ちゃんの黄疸が強くなり、
混合栄養を選ぶことになったのです。

わたしは産婦人科医です。

それでも、思いどおりにはいきませんでした。

だからわたしは、「完全母乳が絶対に正しい」とは思っていません。

母乳育児をしたくても、できないお母さんの気持ちもよくわかります。

人工乳に助けられることもありますし、
混合栄養が必要になることもあります。

大切なのは、お母さんと赤ちゃんが安心して過ごせることです。

ただ、ひとつだけ、わたしが心配していることがあります。

「十分に知る前に選んでしまうこと」

最近は、出産後の比較的早い時期に、
乳汁分泌を止める薬を使い、
人工乳育児を選ぶ方も増えているように感じます。

もちろん、そこにはさまざまな事情があります。

睡眠不足や疲労、仕事への復帰、
不安や痛みなど、それぞれに理由があります。

その選択を責めたいわけではありません。

でも、もし理由のひとつが、
「体形が変わるのが嫌だから」なのであれば、
一度だけ立ち止まって考えてみてほしいのです。

それは、本当に自分自身の願いでしょうか。

それとも、「こうあるべき」という誰かの価値観なのでしょうか。

女性の身体は、妊娠や出産を通して大きく変化します。

そして、子育ては、その後もずっと続いていきます。

だからこそ、
「今の身体を受け入れられるかどうか」という問題は、
授乳だけではなく、その先の子育てにもつながっていくように思うのです。

もちろん、身体の変化によって深く傷ついたり、
心の不調につながったりすることもあります。

そんなときは、無理に母乳育児を続ける必要はありません。

お母さんの心が守られることも、とても大切だからです。

そして、もうひとつ伝えたいことがあります。

それは、「人工乳のほうが楽」という思い込みについてです。

もちろん、人工乳に助けられる場面はたくさんあります。

でも、人工乳育児にも大変なことはたくさんあります。

ミルクを作ること。

哺乳瓶を洗い、消毒すること。

外出のたびに荷物を準備すること。

夜中に起きて授乳すること。

家族と役割を分担しやすいというメリットはありますが、
「人工乳だから楽」「母乳だから大変」と単純に言い切れるものではありません。

実際に、上の子どもたちを完全母乳で育てたわたし自身は、
むしろ母乳育児のほうが楽だと感じていました。

だからこそ、「どちらが楽か」という基準だけで選ぶのではなく、
「自分たちに合っているのはどちらか」という視点で考えてほしいのです。

わたしは、母乳育児を強制したいわけではありません。

ただ、知ってほしいのです。

母乳にはどんな意味があるのか。

母乳育児には
どんなママと赤ちゃんに良いことがあるのか。

どんな支えがあれば続けられるのか。

そして、自分自身は、本当はどうしたいと思っているのか。

そのすべてを知ったうえで、自分自身の意思で選んでほしいと思っています。

母乳か、人工乳か。

その問いの前に、

「私は、本当はどうしたいのだろう。」

「その選択は、十分に知ったうえでの選択だろうか。」

そんな問いを、自分自身に投げかけてみてほしいと思っています。

世界授乳ウィークに、そんなことを考えています。

Follow me!

Back to top